シローせんぱいのこと。



どうしよう、どうしよう。

ついに限界にまで達した不安に、泣き出し地面に座り込んでしまった。



『……どうかした?』



その時、一言かけられた声。

顔を上げてみると、涙でにじむ視界のなかでぼんやりと見えたのは、紺色のブレザーに白いセーターといううちの高校の制服を着た男の子。

涙と逆光で、顔は見えなかった。



『ブルさんが……犬が、迷子になって、』

『犬?この人混みの中で?』

『どうしよう……ブルさん、ブルさんん~っ……』



毎日のように一緒にいて、可愛がっているブルさんを思うだけで、涙はぽろぽろとこぼれだしてしまう。

そんな私に、彼は腕をひっぱり立ち上がらせた。



『泣く暇があるなら探しな。犬種は?あと特徴』

『フレンチブル……白と黒で、首輪が青……』

『分かった。見つかったら大声で呼んで。俺も見つけたら呼ぶから』



名前も知らない、顔すらもよくわからないその人は、迷うことなくそう言うとあたりを見渡す。


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