彼氏と思っていいですか?


帰ろう、と自転車のところに戻った私たちはこじれにこじれたやりとりなどなかったかのように、当たり障りのない会話をしながら家路についた。

家のまえまで来たとき、なんとなく離れがたくて、もうちょっと一緒にいたかった。
だけど、さすがにそうは言い出せなくて、手頃な話題はないかなと必死に探したところ、ひとつだけあった。
額に貼ったままの熱取りシート。
朝陽くんには大ウケだった。

「あり得ない! なんでそうなるんだよ、流されるにも程があるだろ」

「相手は先輩だよ!? 心配してくれているんだし、言えるわけないよ」

「そうか?」

「そうだよ」

片手で顔を隠すように覆って斜に構え、笑いに笑って、指の隙間から覗いた目元には涙が光っていた。

そういうことあるよね、って言ってくれると思ったのに読み違えた。
この空気、お互いの気持ちを確かめ合ったばかりのふたりのものじゃないよ……。


「でも、そこが可愛い」
「は?」

意味がわからず最小限の単語で問う私に、朝陽くんはなぜか呆れた目を向け露骨にため息をつく。顔が赤らんでいるように見えなくもない。
あのさ、と言い掛け、やっぱりいいやと勝手に取り下げる。

つい私の手が動いた。
朝陽くんの半袖を指先でつまんで引いていた。
私から朝陽くんに触れるなんて初めてかもしれない。
「言って。もう少しわかりたいから」

朝陽くんの瞳が揺れた。


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