コドモ以上、オトナ未満。
途端に、きゃぴきゃぴしていた夏川さんのテンションが急降下。
ものすごく冷めた声で、こう言われた。
「……真咲先生って、そういう趣味だったんですか」
「そういう趣味って……だって可愛いじゃん、ココ」
「そりゃそうですけど……男の人が握手会まで行くって、ただのファンじゃなくてもはやおたくの域に入ると言うか……」
「そうだなぁ、うん。彼女に関しては、結構オタクかも」
笑顔で断言すると、ずざざ、と俺から距離を取った夏川さんは、明らかに引いてますっていう顔で俺に手を振ると、廊下の向こうに消えて行った。
……全く。好きな子に会いに行って、何が悪いんだっつーの。
俺はため息をひとつついて、窓から差し込む午後の日差しに目を細めた。
やっぱ、こっちはあったかいなー。
そりゃ向こうには向こうの良さがあって、友達もそこそこできたけど。
俺が大学に通うようになると同時に、母さんに恋人ができて。
そっからはもう、あんなに“心矢は母さんについてくるわよね”と言ってたのが嘘のように、俺のことなんか構わなくなった。
散々振り回されたのがバカみたいだけど、母さんを支えてくれる人がいるのはありがたい。
……俺だって、自由になれるしね。
だから臨床研修の始まるタイミングでこっちに戻ってきて、かわらず理事長職に就いている父の病院で働かせてもらうことにしたのだ。
父は性格も相変わらずで、会話のほとんどが嫌味でできているけど……歳を取ったせいだろうか、なんだかひと回り体が小さくなった気がした。
いつもエラそうな父親の姿に慣れていたからなのか……昔よりだいぶ増えた白髪や少し丸まった背中を見るのは、なんだか複雑だった。
……俺も、大人になったってことなのかな。