コドモ以上、オトナ未満。


特に予定外の急患や、担当している子供たちの容体が悪化したりすることもなく迎えた金曜日。

俺は白衣を脱ぐと同時に、バッグの中から取り出した銀のチェーンを首から下げた。

それはココにあげたものとペアの、ネックレス。

と言っても、俺の方はシルバーで、モチーフは鍵穴のあいた錠。

ちょっとくさいけど、俺の心開かせてくれんのは、ココただ一人……そう言う意味をこめたプレゼントだった。


「……そろそろ、行くかな」


病院を後にした俺が向かうのは、写真集の発売を記念したココの握手会が行われる大型の書店。

久しぶり……どころじゃない、八年越しの再会だと思うと、妙に緊張する。

しかも、本人に“行く”と伝えてないから、どんな反応をされるか想像もつかない。

俺は雑誌とかでココがどんなにキレイな大人の女性になったか知ってるけど、向こうは俺を八年もの間一切見てないんだ。

自分じゃ変わったかどうかわかんないけど、少しは大人っぽくなったと思ってもらえるといいけど。

……まさか、顔を見ても気づかないとかいうオチはないよな?


なんてことを考えながら到着した書店は、すでに握手会に参加する人々が集団になっていて、係りの人が「一列に」と彼らを並ばせているところだった。

彼らは当然ココの熱烈なファンなわけだから、少しでも早く彼女と握手したいがために、殺気立ったようにぎゅうぎゅうと押し合って並ぶ。


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