アイドルなんて、なりたくない<font color=
第一章『破られた平穏』
木下優衣の一日は、精神統一から始まる。

朝早く起きて、身仕度を整える。つまり、道着に着替え、道場へ向かう。

道場に着くと、入り口を開けて、まずは一礼する。

静かに隅の方を歩いてから、奥にある掛け軸

【武の道とは、無心なり】

大きく掲げられている前に立つと、また一礼する。

「ふぅぅ」

優衣は、ゆっくりと深呼吸してから、掛け軸より距離を置いて正座した。

両目を閉じ、深呼吸を整える。

この家に来た日から、祖父に叩き込まれた事だ。

祖父である木下辰之助は、国でも屈指の空手家であり、彼の弟子は全国に散らばっている。

優衣の父・木下隆介もそうだ。

東京支部の師範代を勤めている。

優衣は親元を離れて祖父母により育てられたのだ。

なぜ、優衣が親元を離れたのかは、深い事情があるのだが…

それは、おいおい話していこう。

祖父に強制的に叩き込まれたとはいえ、優衣はキライではなかった。

むしろ、自分の性に合っていると毎日続けている。

田舎の気候や早朝であるからだろう、空気はとても澄んでおり、窓から入る微かな靄は、太陽に反射して煌めいている。

実に美しい空間であった。
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