アイドルなんて、なりたくない<font color=
慎吾は、優衣を満足気に見つめて

「ますます、撫子に似てきておる」

そう言って優衣の頬に触れる。

「撫子も白いワンピースがよく似合っていた。百合のように気高く、朝霧のようにはかない女性であった」

寂しげに言う。

「大お祖父様。私は撫子大お祖母様とは違いますわ。早く亡くなる事はありませんから」

笑顔で言う優衣に

「そうだな。優衣は撫子のように早く逝かない」

そう言って微笑む。

「はい、大お祖父様」

優衣は笑顔で言う。

さて、撫子の話になるのだが、静の母であり、優衣の曾祖母にあたる。

姫田撫子―

圭子様の妹である。

生まれつき体が弱く、龍神町はおろか蒼龍神社からも外に出る事は無かった。

町の者は必ずしも彼女に恋い焦がれてしまう。

誰にでも優しく穏やかな性格だった。

遠くの名士等、求婚者は途絶える事は無かったが、すべて断り続けた。

『私は、この地から離れる事が出来ないのです』

口癖のように、撫子は言っていた。

寂しげに

そんな撫子には幼なじみが二人いた。

一人は秋山慎吾であり、もう一人は慎吾の従兄弟である秋山秀吾である。

三人は生まれた時から、仲がよかった。
< 86 / 99 >

この作品をシェア

pagetop