Sweet Honey Baby
 俺が部屋に戻ると、すでに千聡は着替えて、窓からぼんやり外の景色を見下ろしていた。




 「…やっぱ、ここに泊まっていくか?」

 「ああ、帰って来たんだ、お帰り。帰るよ」

 「俺も一緒に泊まっていくって言ってもか?」




 はあ?と顔を顰めてくるこいつが可愛くない。




 「そりゃ、夜景が綺麗だとは思ったけど、未婚の身で、あんたと外泊だなんてふしだらだと思われるでしょ?」

 「それこそ、はあ?だ。俺の親がそんなの気にするような連中だとお前思ってるわけ?」




 この2か月邸に逗留して、いかに俺に無関心かわかったはずだろうよ。




 「…まあ、ちょっと特殊な人たちみたいだとは思ったけどね。それにしたって、たぶんあたしの行動も筒抜けだろうから、あんまり実家に顔がたたないマネはしたくないのよ」

 「ふ…ん」




 言葉の通り、さっきまで見入っていた窓の外にもさっさと見切りをつけて、いくぶんか顔色も戻って動きもスムーズになった千聡が俺へと手を伸ばして来る。




 「……」

 「……」

 「…何黙って見てんのよ、さっさと出しなさいよ」

 「あ?」

 「買って来たんでしょ?ストッキング」




 言われて憮然と、手に持った袋を差し出す。


 この俺をパシリに使う女なんてこいつくらいなもんだ。


 まあ、かなり手荒に扱っちまったから、その分俺もこの女に強気に出づらい。




 「なあ」




 俺の目の前でも堂々とストッキングを履いている千聡を見下し、俺がつけた首筋の痣や、ほの赤い唇からなんとなく目を離せないでいた。




 「…なに?」

 「怒ってないのか?」

 「……、なにを?」




 何を…って。




 「俺がお前を強引にここに引きずってきて、乱暴に抱いたこと」




 チラッと俺を見上げた目が、飽きれているように見える。


 でも、それはきっと気のせいなんかじゃなくって、さぞガキだとバカにしてんだろうな。




 「いまさらでしょ?そもそも、あんた初対面で、あたしに何をしたと思ってんのよ」

 「…双方合意のセックス」
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