躊躇いと戸惑いの中で


「何、考えてるんですか?」

次々にグラスにワインを注ぎ、考えながら飲み続けていたら、不意に訊ねられて顔を上げた。

そこには、とても柔らかで穏やかな笑顔があった。
その顔に、ドクンと心臓が鳴る。

ああ、もうっ。
私ってば正直すぎ。
目の前の顔に見惚れちゃう。

いや、これは飲みすぎかも?

思って、テーブルに置かれているボトルに視線をやると、中に残っているワインはあと僅かだった。

ああ、やっぱり。
ペースも考えずに飲みすぎてるからだ。
だから、あんな音……。

あ、乾君にもと思っていたのに、グラス一杯分もないじゃない。

「あ、ごめん。飲むって言ってたのに。もう一本頼もうか」

慌てて店員さんを呼ぼうとしたら、やんわりと止められた。

「大丈夫です。そろそろ出ませんか?」

言われて、時計に視線を送ると、終電はとっくに過ぎていた。

「えっ! うそっ!?」

驚く私の行動を、目の前の乾君は楽しげに眺めている。

「大丈夫です。タクシー拾いましょう」

そ、そうよね。
終電逃したくらいで、何を慌ててるんだ、私。
河野とだって、終電逃したらタクシー拾うじゃない。

バッグを手にしてフラフラとレジへ向かうと、支払いを早々に済ませた乾君が私を待っていた。

「あ、ごめんね。いくらだった?」

財布を取り出して訊ねると、黙って首を振る。

「女性に出させたりしませんよ」

ぼんやりとした思考でその言葉を噛みしめる。

女性……。

河野と飲みに行けば、必ず割り勘だ。
もしくは、河野が全額払えば、次回は私が出す。
それがいつもだった。

なのに、今日は違う。
なんて言うか、女扱いをされたことが嬉しくて素直に受け入れている自分がいた。

そうか。
彼といると、私はいつも女になれるんだ。
片意地張って、なりふりかまわず仕事している自分を脱ぎ捨てられるんだ。

ちゃんと女性として扱ってもらえることが、こんなに嬉しいなんて。
だから、心地いいのかも。



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