躊躇いと戸惑いの中で


何となく不安になって、顔を見ていたら。

「ああいう人。タイプですか?」
「え?」

質問の意味がよく解らない。
ランチのことではない?
ああいう人、が誰にあたるのかわからないまま乾君を見続けていたら、さっきの店員です。なんて、ぼそり零された。

「え? あ、ああ」

さっきの男性店員さんのことを言ってるんだ。
思わず店員さんのいる方へ視線を向けてみたけれど、こちらに背を向けているので顔は見えない。

タイプっていうか。

「とっても感じはいいよね。笑顔で迎えられたら、気持ちいいじゃない」

私の応えに満足していないのか、乾君が視線を落としてメニューを見始めた。

あれ?
もしかして、焼きもち?

……まさか、ね……。

いやいや、あるかもしれない?

私、恋愛から離れすぎていて、こういう感覚が薄れているし。
確かにいい笑顔だったし、ちょっと顔は整ってた気がする。
けど、そんなにじっくり観察したわけでもないから、その程度の印象しかない。

それに、店員さんだよ。
ないよ、うん。
ない、ない。

あ、でも、よく通ってたお店の人とデートしたことあるから、なくはないのか?

けど、今来てちょっと挨拶した程度の店員さんの顔など、まともに認識などしていない。

いまだメニューに視線を落としたまま、顔を上げようとしない乾君。
もしも、本当に焼きもちなんてものを、こんな私に焼いてくれているんだとしたら。

「私は、乾君の方がタイプだよ」

さっきの店員さんにも負けない笑顔を添えて言ってみたら、メニューから上げた顔をクシャリと嬉しそうに崩した。

あれ。
正解?

やっぱり、焼きもちなんだ。
なんか、ちょっと嬉しいかも。

なんか、こういうの。
くすぐったいけど、いいね。


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