躊躇いと戸惑いの中で


本社勤務第一日目。
スーツに身を包んだ乾君がやってきた。
若いせいか、今日もやたらと爽やかだ。

「おはようございます」
「おはよう」

総務に顔を出した乾君は、心持緊張した様子が窺える。
店舗に居る時よりも、表情が幾分か硬くなっていた。

「肩の力抜いて」

私よりも身長の高い乾君の肩に手を伸ばしてタンと軽く一つ叩いて笑顔を見せると、彼も少しだけ表情を緩めてくれた。

「河野には、会った?」
「はい」

「そう。じゃあ、あとは、梶原君ね。会った事は、ある?」
「会ったというか。一度だけ、会議の時にチラリと見かけただけです」

「新入社員だもの、そんなものよね。見た目って言うか、ちょっと目が恐いけど、悪い人じゃないの。あー、でも気難しいかな。ただ技術とかセンスは凄いのよ。引継ぎの時には、できるだけそういうの盗んだほうがいいと思う」

若干苦笑いになりながらも、乾君が会う前から引いてしまっても困るので、梶原君の負の情報はなるべく控えておく。


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