躊躇いと戸惑いの中で


新店オープン翌週。
本社は、早くも平穏を取り戻していた。
店舗開発は早速次の物件探しを社長に依頼されて駆けずり回り、新店の店長や社員は欠品を出さないようにと忙しそうだけれど、それ以外はわりとのんびりしたものだった。

「戻りましたー」

午前中、近郊の担当店舗を廻っていたらしい河野が、本社へと戻ってきた。

「おつかれー」

デスクに向かったまま声だけかけると、河野がすぐそばまで近づいてくる。

「忙しいか?」
「まぁ、そこそこ」

書類に目を通していた視線を河野へ向けると、昼飯に行こうと誘われる。

「あー。じゃあ、あと二〇分待ってて。書類の内容を確認して、社長に承認を貰わなきゃいけないの」

細かく文字の書かれた書類を見ていたせいか、眉間に寄った皺もそのままに応えると、目つきがやばいぞと笑われた。
私がまた書類と格闘し始めると、河野は煙草でも吸いに出たのか姿を消した。

しばらくして、社長室を訪ねて書類に承認を貰い、デスクで河野が戻ってくるのを待っていた。

「終わったか?」

煙草の香りを仄かにさせた河野が、はらへったぁ、と呟き現れる。

「お待たせ。何食べたい?」

財布片手に立ち上がり、河野と外へ向かう。

「腹減りすぎたから、ガッツリ食いたい」
「ガッツリって何?」

「とんかつとか、ラーメンに餃子とチャーハン付とか」
「本当にガッツリだね」

ボリュームがありすぎて、こっちは話だけでお腹がいっぱいになりそうだ。


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