義兄(あに)と悪魔と私
 
「……嫌だ」

比呂くんは首を振る。
私は、聞こえないふりをした。

「私は、母に不倫をやめさせたいの」
「もう黙って」

言って、比呂くんは私の口を塞いだ。

「……っ」

長い長いキスに侵されながら、私の瞼の裏には、目を閉じる直前に見えた比呂くんの顔が浮ぶ。

(なんで……そんな悲しそうな顔をするの)

無神経な私のせいだろうか。
そんなことを考えるけれど、結局いつものように何も分からなくなる。

落ちる。落ちていく。奈落の底まで。

それでも、私は。
 
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