義兄(あに)と悪魔と私
 
比呂くんの体温、心臓の鼓動を感じる。
男の子らしい、しっかりした胸板に押し付けられて、どうしようもなく泣きたくなった。

そんなもの、裸の時に何度でも見た。
だけど、こんな風に抱き締めてくれたことなんて一度もない。

「こんな状態で、置いていけるわけないだろ」
「――っ、はなして!」

どうして、今なのか。
これ以上、優しくなんてしないで欲しい。
そうでなければ、許してしまいそうになる。

「嫌なら突き飛ばして。じゃないと離さない」

そんなことを言うのは卑怯だ。
私のことなんて、本当は嫌いなくせに。
他に好きな人がいるくせに。

私にそんなこと、出来るわけがないのに。

「心配しないで。良子さんのことなら、俺がなんとかする。きっと大丈夫だから」
「なんとかって……」
「俺に任せて。円はただ待っててくれたらいい。くれぐれも、相手の男には関わらないように。それだけだよ」

母の相手は暴力団関係者の危険な人間。
けれど私は、比呂くんが念を押した本当の理由をまだ知らなかった。
 
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