義兄(あに)と悪魔と私
 
比呂くんは男子トイレから出てきた。
彼はもしかして、何かを見たのだろうか。

「何か……って?」

激しい鼓動を刻む心臓を気取られぬよう、努めて冷静に言う。

「何って、トイレだし……幽霊とか?」

しかし私の緊張とは裏腹に、比呂くんは真面目な顔でそう答えた。
拍子抜けしてしまった私は、思わず笑ってしまう。

「……幽霊って、トイレの花子さん? あはは……そんなの信じてるの?」
「まさか」
「信じてしまったら、怖いからだったりして?」
「それはそっちだろ?」

茶化して言った私に、比呂くんもクスッと笑みを漏らした。
少しだけ心が軽くなる。
比呂くんがここにいてくれて、良かった。

この様子なら、彼は何も見なかったのだ。
私は心の底から安堵した。
 
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