君影草~夜香花閑話~
「頭領。頭領がそのようなことを仰るのは、初めてではないですか」

 別の男が、少し笑って言った。

「ご自分の望みを我らに仰るのは。それほど強いお気持ちなのでしょう?」

「まして、頭領が女子を欲している。頭領の今後に、大きく影響することではないですか。祝言ですよ? 頭領の祝言のためとあらば、我ら一同、協力は惜しみません」

 そう言って、皆が頭を下げる。
 真砂は心の疼きを感じた。

 三年前の怪我の後、初めて皆と合流したときのようだ。
 あのときも、皆真砂の帰還を心から喜んだ。
 目に映る里の者の嬉しそうな表情に、心がざわついたものだ。

 真砂は下を向いた。
 僅かに口角が上がる。
 皆の気持ちを、嬉しい、と思った。

「……すまない。皆、ありがとう」

 真砂の口から出た言葉に、皆が目を見開いた。
 が、すぐに今まで以上に、嬉しそうな顔で笑い合う。
 何故か捨吉は涙ぐんだ。

「皆の気持ちはありがたい。だが、やはり深成を攫いに行くのは、俺一人でいい」

 少し穏やかな表情で、でもきっぱりと、真砂は皆の協力を拒絶した。
 え、と皆が真砂を見る。
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