社長に好きだと言われたら


憂鬱な明日は思った以上に早く来た。

資料は熟読したけれど一抹の不安は
大きくなるばかりだ。


「おはよう、凛々。」

同じベッドで寝る莉央は
不安気な凛々に囁く。

いつもは凛々より起きる
時間が30分は遅い。

寝起きは悪いし莉央は朝が弱い。


だが凛々の不安を察知してか
こんな時に起きて背中を摩る
莉央が凛々は凄く好きだった。





「じゃあ、凛々。頑張ってね。」

同じ家に住み同じ会社なのだから
当たり前だが莉央とは一緒に
通勤をしていた。

だがこんな深妙な面持ちに
なったのは始めてであろう。


部署は違うため莉央はここで
見送ることしかできないのだ。

「莉央、わたし!頑張るね!」







なんだか早く着きたくなくて
4階に部署はあるというのに
凛々は階段で行こう、と
最後の悪あがきをした。

4階まで階段は結構辛いが
凛々としてはそれだけ
憂鬱だったのだ。



そんな時であった。

「君が、倉嶋凛々さんだね?」


凛々が声を大にして苦手だと
叫べる相手ーーそう、
自社の社長はそう言った。


「篠宮社長‥‥‥‥。」

凛々は次の言葉を探したが
なんと言うべきなのか
凛々を悩ませる。

お願いします、か?
おはようございますか、か?

そもそもこの人私が
企画に参加するって
分かってるよね?

嫌でも分かってるから
声掛けたんだよな

色々な思いが交差するうちに
篠宮の表情は‥‥‥‥


「くく‥っ、ふふふ。
倉嶋さん、すごい複雑そうな
顔してますよ。やっぱり面白い、あの絵を描くだけあるなぁ。倉嶋さん‥ふふ。」

なんか笑ってる?!

凛々の大嫌いなナルシスト社長は
その大きな体を折って少年のような
笑顔を見せたのだった。


あの絵‥‥‥といえば1つしかない。

社内のイベントのようなものだった。

どんなキャラクターだったら
子供にウケるのか考えてみよう‥
なんて、そんなイベントに
乗っかるのは賞金目当てか
よっぽど暇な人だけだ。

だが、目を通す篠宮の前に
可愛らしいキャラクター
ばかりの中に異色を
放つものがあったのだ。

怪獣か?
人か?

けしてうまい訳じゃない。

ただ、何度も何度も
描き直されたその絵は
暖かく、優しかった。

そんな絵を描く倉嶋に
篠宮は好印象を持っていた。



あの絵‥わざわざ見たんだ。


もちろん凛々の篠宮に対する
イメージとはかけ離れている。

平社員の描くイベントで提出された
だけの絵を一枚一枚見るなど‥‥

「あ、あんな絵見て頂いたんですね。」


凛々は怖かった。

美形で社長で背も高くてモテる。
そして優しく真面目だなんて
そんな完璧な男がいるなんて
凛々は知りたくないのだ。








< 4 / 8 >

この作品をシェア

pagetop