恋は盲目 Ⅲ 〜密やかな愛〜

浩輔の面影を重ね俺を見ているのか⁈


それなら、店員の立場に徹するのみだ。


もう、2度と浩輔の代わりにはならない。


お客も引き、カウンターには美鈴1人。


口を開いた美鈴。


「ねぇ、いつまでシカトするつもり⁈」


「……なんのことですか?」


苛立つ美鈴。


「ミモザ、おかわりお願い」


ネーブルを絞り、グラスに注ぎシャンパ

ンの代わりにスパークリングワインをグ

ラスに注ぐ。


「お待たせしました」


グラスを美鈴の前に差し出し、空いたグ

ラスをさげる。


その時、ネクタイを掴まれ前のめりにな

った。


「なにする……んっ」

突然、唇にキスを重ねてきた美鈴。


懐かしい唇の感触に酔いしれる。


無意識に美鈴の頭部を押さえ角度を変え

キスに応える。


息を乱す美鈴。


「ふっ…はっ、んっ〜ん」


『こほん』と、わざとらしく咳払いが聞

こえた。


「大輔さん…店でお客に手を出したらダ

メだって俺に言いませんでしたか?」


キスをしたまま声がする方を目だけで見

れば、いつの間にか雅樹がカウンターに

いた。


憎らしい笑みを浮かべ、タバコに火をつ

ける雅樹。


チッ…嫌な奴に見られたものだ。


ネクタイを掴む美鈴の指を解き、唇を離

す。


彼女の頭部を撫で、雅樹の元に行くとカ

ウンターにお金を置き帰っていく美鈴。


「いいんですか?」


「あぁ、いいんだ」


追いかけなくていい。


彼女が求めてるのは俺じゃないのだから

このまま、もう来なければいいのに…。


「大輔さん…口紅ついてますよ」


あわてて唇を指で拭う。


「大輔さんでもそんな顔するんですね。

初めて見ました」


どんな顔だと言うのだ⁈


こいつは、美鈴と入れ違いで入ってきた

昔のスタッフだった。


昔の俺と同じで女を信用しない男だ。


薄っぺらい笑顔で女を落とし、1人の女

と続くことはなかった。


最近なってよく顔を出すようになったが

、早希という女に出会い何か変わりつつ

ある。


「何にする?」


「ビールで…ところで明日、お願いしま

すね」


「あぁ…飲んだら帰れよ」


ビールを出し、後をスタッフに任せて奥

へ引っ込んで行く大輔。


事務所のソファに寝そべり、美鈴とのキ

スを思い出していた。


彼女は、どうしてキスをしてきたのだ?

わからない。


唇に残る熱が、俺を苦しめていた。


今でも残る感触に身を焦がし震えが止ま

らない。


触れてしまった温もりを忘れることがで

きるのか?


また、触れてしまったらきっともう止め

れないだろう。


「クソッ…」


どこにも向けれない苛立ちを拳を握り壁

に打ちつけた。


いつまで浩輔の幻影に惑わされているん

だ。


あいつは、もう愛する女と幸せに家庭を

築いているというのに、俺たちの思いは

一方通行のまま進むしかないのだろうか




美鈴


お前はいつまで俺に浩輔を重ねて見てい

るつもりだ。


報われない恋を捨て、早く新しい恋をし

てほしい。

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