鳴かない鳥
翌日、花が真っ直ぐ学校から帰って来ると、いつもと違い部屋は薄暗かった。
「ただいま…お母さん?」
夕飯の買い物にでも出ているのだろうか。
彼女は靴を脱ぎながら、すぐ脇にある玄関の明かりを点けようとスイッチに手を伸ばす。
光に照らし出された室内の、目の前の光景に花の体は硬直した。
「…お、母さん…?」
トイレのドアに凭れて、母親は座っていた。
足を床に投げ出して、ぐったりと頭(こうべ)を垂れている。
返事はない。
花はそっと近づいた。
よく見るとノブに掛けられたビニール紐が、薫の首に巻きついている。
「お母さんっ、何してるの!?」
紐を解こうとして触れた母の頬が冷たくて、思わず手を引いた。
花はその瞬間、ようやく現状を理解した。
心臓が異様なくらいドクドクと大きな音を立てる。
「大変…救急車、呼ばなくちゃ………?」
半ば腰が抜けた状態で床を這い、電話の所まで行こうとした彼女の左手に、その時何か硬いものが当たった。
見ると、そこにはなぜか花の部屋に置いていたはずの携帯電話が落ちている。
とにかく電話を掛けようとディスプレイを見た、次の瞬間、彼女の表情が凍りついた。
それは父親からの受信メールが保存されている、フォルダの一覧画面。
花の頭の中は、真っ白になった――。
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