鳴かない鳥

何だ…?

今まで話していた高村の表情がポカンとしたものになる。

背後に何があるんだ。

振り向こうとすると同時、


「狭間くん」


誰かに名前を呼ばれた。

僕の視線先には、教室の入口にメイド服を着こなした大原が恥ずかしそうに立ってこっちを見ている姿。

こういう服装って誰でも似合う訳じゃないよな。

なのになぜか自然な感じで似合っていて、違和感はない。

ただでさえ美人な大原が学校の制服ではなく、メイドの格好をしていることに周囲の男子だけでなく女子からもタメ息が上がるのは分かる気がする。


「今、制服が完成したから着てみたの…どうかな…おかしくない?」


そう言えば、メイド担当の女子は家庭科室にこもって、自分たちでデザインした制服を作っていたんだよな。

わざわざ教室まで見せに来てくれたんだ。

…と、彼女の陰から同じくメイド服を着た田畑律子が、ヒョコリと顔を出すと、

「狭間くんに1番に見せたかったんだよねー、由衣」

大原を肘でつつきながら、ニヤニヤする。

「り、律子…」

彼女は顔を真っ赤にして俯いた。

「うん、とても良く似合ってるよ」

僕は素直に答える。

大原はあの事件以来、とても前向きな性格になったと思う。

…というか、努力しているのだろう。

クラスのイベントにも積極的に参加するようになっていた。

何よりも作られたものでない、自然な笑顔が増えた気がする。

今回のメイド候補に自分から手を上げたのには、さすがに驚いたけど…。

でも、どれもとてもいい事だ。

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