鳴かない鳥

駅に向かうまでの間、いくつか小さな坂がある。

少し上っては下り、また上っては下る…そんな繰り返しがあるのは、うちの学校が街からやや離れた丘を切り開いて建てられているから。

その坂を抜ければ、住宅街に、そして駅へと出る。

学校としては最高に静かでいいロケーションに恵まれているんだろうけど、駅までは徒歩で20分はかかる。

まだ暑さの残る夕暮れの中を1人歩いていると、


コロコロコロ……


前方の上り坂から赤くて丸いものが、こっちに向かって転がってきた。

ボール…いや、リンゴ!?

一瞬、ドラマのロケでもやってるんじゃないかと思わせるようなシチュエーションに、僕は思わず辺りを見回してしまった。

その後を人が1人走ってくる。

僕は1つ、2つ、3つ、足元のそれらを全て拾うと、追いかけてきた人物に渡した。

僕と同い年くらいの、髪が長い少女。

彼女はペコリと頭を下げる。

それからリンゴを持っていた袋に入れ、ポケットからメモとペンを取り出して何かを書くと僕に見せる。

《ありがとう》

あれ、話せないのかな。

「どういたしまして」

僕が答えると、彼女は少しだけはにかむように笑って去って行った。

どこかで見た事のある顔だな…どこかで。

駅までの道を歩きながら、考える。


…………………あ。


髪型が違ったけど、あの背格好にあの笑顔。

あれって、今井じゃなかったか?

うん…間違いない………と思う。

けど、言葉が話せないとは聞いてなかったけどな。

他人の空似?
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