鳴かない鳥
「お前昨日からあいつの事、すげー気にしてるみたいだけど…何かあったのか?」
「ううん、別に」
慌てて首を横に振って、否定する。
けれど、高村のこういう変な勘は鋭い。
「あっ、お前今隠し事しただろ」
「してないよ」
「した。白状しろ!!」
「してないって…疑い深いなぁ」
僕はクスクス笑うと、次の授業の準備を始める。
「ほら、高村も現国の用意しないと、もうすぐ授業始まるぞ」
「お、おう。じゃ授業終わったら昼休み、体育館裏な」
「体育館裏…タイマン勝負でもしようってのか…」
「どうしてそうなる。誰もいない場所でする事といったらお悩み相談だよ、狭間くん」
人差し指を立てて顔の横でチッチッと振って見せる。
お前は何か凄い勘違いをしてると思うよ、高村。
それに――。
「…多分、無理だと思うけど」
「何で?」
「それはお前が授業の準備をしてないからだ、高村」
背後から怒りを含んだ低い声がして、それを聞いた途端、高村の表情が凍りつく。
ギギギギ…と、人形のようにゆっくりと振り返ると、仁王立ちしている人物を見て『げっ!!』短い声を上げた。
「あ、あはは…鈴木先生、来てたんですか」
「来るだろ、授業なんだから。お前、学園祭が近いからって浮かれすぎてるんじゃないか?昼休みは体育館じゃなく、職員室に来るように…分かったな?」
不機嫌な顔に浮かべる笑みは迫力満点だ。
「返事は?」
「はい…」
がっくりうな垂れて答えた高村が少し気の毒にも思えたが、これで余計な詮索をされなくて済むと、僕はホッと胸を撫で下ろしたのだった。
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