鳴かない鳥
        ☆


「…でさ、鈴木のヤツ。昼休みだけじゃなくて、放課後も職員室に来いって言うんだぜ。たかが授業の準備をしてなかっただけで、こんな仕打ちってあると思うか!?」


放課後、隣の席で切々と訴える高村に、僕はタメ息をつく。

これでは帰るに帰れない。


「ようやく任されていた学園祭の準備も一段落、今日は久々お前と茶でもして帰ろうかと思ってたのにさぁ…」


お茶って…そんなの男とするなよ。

喉まで出かかった言葉を我慢して飲み込む。

どうせ体育館裏で出来なかった《お悩み相談》という名の、隠し事を聞きたいんだろう。

その真意は見え見えだ。


「なぁ、もうとっくにその放課後なんだけど、行った方がいいんじゃないか?」


「何だよ、狭間…その冷たい態度は」


「冷たいって…遅れるともっと先生の機嫌損ねるぞ」


「あー、そうなんだよなぁ。行きたくねー…でも機嫌は損ねたくねー」


グシャグシャに髪を掻き回しながら立ち上がると、高村は葛藤と闘いながら教室を出て行った。

頼りになる存在だけど、時々子供っぽいんだよな。

ま、それが高村の良さなんだろうけど…。


「さてと」


辺りを見回す。

約束の本を渡そうと思ったのだが、カバンは机の上にあるものの大原の姿はない。

他にも荷物はそのまま、姿だけが見当たらない女子生徒がいる所を見ると、衣装作りにでも駆り出されているのだろう。

後少しで本番だもんな…。

僕は彼女の机の上にそっと文庫本を置くと、教室を後にした。


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