Sに堕ちる
Sに堕ちる

「でね、昨日の壁ドンがほんっとうに格好良かったの!こうやって壁にドンッてしてね、『早く惚れてよ』って言うんだよ!」

「………」

「って、ちょっと迅(ジン)!聞いてるのっ!?」

「………」

「迅!」

「……うるせぇ」

「うるせぇって──」

「ま、まこちゃん!一回落ち着こう!ね?」

「………」



繁華街のちょうど真ん中に位置するこ洒落たBAR、“chain”。

そこに私、葛西 真琴は毎日のように入り浸っていた。



カウンターと四人掛けテーブルが三席。

お世辞にも広いとは言えない店内はブラックを基調としたシックな空間で。

三ヶ月前、初めてこのお店に訪れた時一目惚れしてしまった。



良く飲むのはリキュールベースの甘いカクテル。

酔いたい時はウォッカやジンをベースにした少し強めのカクテルを飲む。


その日の気分に合わせて飲むカクテルは仕事の疲れを癒してくれる最高の一杯だ。


それなのに。


「夢ばっか見てるから男出来ねぇんだよ」


この男はその至福の時間をいつもぶち壊しにする。
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