て・そ・ら
あたしは優実の言葉に、頬を叩かれた気分だったのだ。
大きな声が聞こえる。
下を見れば、またすぐに横内の姿を見つけることが出来た。
教室では見せない、きびきびした動き。汗をかいた顔。土が足元を汚している。右手に握ったラケットがクルクルと回って、まるで手の延長であるみたいだった。
上からではしっかりとは見れないけれど、きっと真剣な顔をしてるんだろうな。
あたしが見たことのない、横内の顔。
あのいつでも閉じられているか眠そうな、彼の特徴的な目。それがしっかり開かれて、黄色いボールを追っている。きっと今の時間なら、窓に反射する夕日もうつしているはず。一体どんな表情なんだろう・・・。
「皆、必死だね。明日の試合には絶対勝ちたいって感じ」
優実の声が遠く聞こえていた。
あたしを取り囲むのは、彼らが出す揃った掛け声だけ。
ぐぐっといきなり湧き上がるものがあって、あたしは何か泣きそうになる。キラキラ光る夕暮れの光景の中、手を伸ばしても届かないような、真剣で純粋なものを見てしまった気がした。
叫びだしたいような焦燥感も。
だけど口をかたく閉じて、中庭に背をむけて美術室へ戻った。
「七海~?」
優実の声が背中を追いかけてくる。あたしは片手を後手に振って、自席に座った。ヒカリちゃんが不思議そうな顔で、佐伯先輩どうしたんですか、と聞いてくる。
「終わらせようと思って」
そして筆を取り、最後の仕上げに掛かりだした。