て・そ・ら


「ほら、折角竹崎さんが付き合ってくれるっていうんだからさ!」

 そう言いながら飯森さんはピアノの前に佇むクラスの美少女を指差した。竹崎さんは優しく微笑んでいる。途端に、寺坂が横内のわき腹を肘でつつく。

「・・・そりゃ仕方ないよな!よし、もう今日はクラブ諦めて俺らも協力しようぜ、横内!」

「協力って言葉を使っていいのはあたしらだけよ!君たちが口パクなんかするからー」

 間髪入れず飯森さんが噛みついた。

 寺坂・・・嬉しそう。あたしはそろりと音楽室の出口を目指して歩きながらそう思った。そうか、きっと寺坂も竹崎さんを気にしてるんだろうな。だってあんなに可愛いんだもんねえ・・・。

 少し、胸の中にトゲがささったような感覚があった。

 ・・・横内も、嬉しいのかな。竹崎さんと居残り。

 他のクラスメイトが去っていってガランとした校舎3階の特別室廊下で、あたしは一人、鞄を抱えてぺたぺたと歩く。

 ・・・あーあ、夕日も見れないし、もう残念感が半端ないよ。

 出てきて遠ざかりつつある音楽室からピアノの音が流れ出す。

 練習始まったんだ。ってことはやっぱり、横内も残っ――――――――――――

 その時、パタパタと足音がしたのにきがついて、あたしは振り返る。そうしたら、まさかの横内が走ってきているのに気がついた。

 それも全力疾走で。

「え・・・」

「巻き添えになるぞ!佐伯も走れ!」

 ―――――――はい?


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