花と死(前編)
その事件に友人が巻き込まれ、ヴォルフラムとクラウジアは犯人と対峙した。

その時に、ヴォルフラムは“本来持ってない筈の能力”を使った。

前世の能力なのだと彼は言う。
“転生を繰り返し、今は使えない能力”
それが何故、使えたのかはクラウジアは知らない。

理解したことは、彼の身体が壊れていく光景。
恐らくはその能力を使うと彼は死んでしまうのだろう。
転生するのではなく、本当に。

ヴォルフラムが、愛しているひとが居なくなるような予感。

取り乱し、叫ぶ男。
それは、脆くて弱くて悲しい程に切なる叫びだった。

その時の影響か、未だ上手く喋れないようだ。
「ヴ、ヴー、ガルルルル……」
喋ろうとして唸り声になった。
(不甲斐ない。)
ヴォルフラムは決まりが悪そうにする。
「それに、顔色が悪い。食事は?昨日は“後で”と言ってそのままだったが。」
クラウジアはそっぽを向くヴォルフラムを見て、食べていないと察する。
「これで何日目だ。いい加減、食事を取らないのをやめろ。」
「ガルルルッ」
「狩りで補っている?それは、生き血と少しの肉だけだろう。吸血鬼とはいえ、それだけで補えるわけではない。第一、あの事件以来、御前は此処に籠りっきりだ。狩りすらしてないだろう。」
唸り声を上げるヴォルフラムにクラウジアが説教をした。
「…………何か、悪い夢でも見たのか?」
頬に触れる手の暖かさが伝わる。
「!!」
瞬時にその手を払った。
何故だか、怖かった。

『知ってるでしょう?貴方の大事なひとは皆死んでしまうのよ。』

そんな声がした。

「本当、隠し事が下手だな。ほら。私は此処に居る。」
抱きしめられ、ヴォルフラムは身を委ねた。
「そうやって最初から甘えればいいのだ。」
クラウジアは力を少し込める。
彼のシャツ越しにゴツゴツした骨の感触がする。
その感触は骸のようだ。
「もう少し太れ。不健康。」
クラウジアは抱きしめたまま睨む。
「……」
ヴォルフラムが聞いているのかいないのか解らない。
しかし、痩せている身体でも生きているのだということは鼓動と呼吸で解った。
それが唯一、安堵出来ることだ。

失うのがこわい。

クラウジアにとって、ヴォルフラムこそが全てだ。

全ての世界だ。

愛おしい。

「私も、御前と同じであるならば良かった。」
そう呟けば、ヴォルフラムがぴくりと反応した。
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