きみと駆けるアイディールワールド―赤呪の章、セーブポイントから―
 攻略法がわかってしまうと、バトルの難易度は一気に下がった。ホクラニを体内に取り込んだオヘは、異様にヒットポイントが高かった。でも、それだけだった。
「いやぁぁぁっ!」
 甲高い悲鳴とともに、オヘは倒れた。
 黄金色の肌が強烈に発光する。オヘは、自分の体を抱きしめた。光はオヘに反発するように弾ける。オヘの胸元から、キラキラと、ホクラニがこぼれ落ちた。
「もらってくわよ」
 アタシはホクラニを拾い上げた。
 オヘがアタシを見上げた。呆然とした顔。その輪郭が歪む。みるみるうちに、オヘの背丈が縮んだ。シャープすぎる顔立ちが、子どもっぽく丸くなる。バストが、ぺたんこにしぼんだ。
「え。ガキかよ」
 それがオヘの本性だった。十歳くらいかしら。黄金色をした大きな目が、うるうるとにじんだ。
「えーん!」
 オヘはピョコンと跳び上がった。泣きじゃくりながら、巨大なタケの中へ引っ込んでいく。
「一つ目のミッションは、これでクリアね」
 アタシは手のひらの上でホクラニを転がした。ピンポン球くらいの大きさだ。装備できないアイテムだから、重さを感知できない。
 あとはフアフアの村へ帰ればいいだけだ。
 でも、帰り道は、悲惨だった。
「なんなのよ、この迷路!」
「おい、ここ、さっきも通っただろ?」
「通ったわよ、バカ!」
「オレにキレるなって」
「さっきは右の道を選んで行き止まりだったから、次は左よ」
「シャリンって記憶力はバツグンだけど、勘は最悪だよな」
「うっさいわね!」
「あ、ほらそこトラップ」
「わかってるわよっ!」
 さっきのバトルで、ニコルはスタミナポイントを消費しきってしまった。だから、迷路みたいな熱帯雨林に使役魔法をかけることができなくて、ラフの背中におぶさるだけのお荷物になっちゃってる。
「ごめんね~」
 ニコルは謝るけど、その笑顔、絶対に反省なんかしてないわよね?
 長い長い迷路の道のりを、アタシとラフはひたすら根気強く歩き続けた。
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