女子力高めなはずなのに
「……親父、よく来るの?」

井川さんが囁くように聞いてきた。

その囁きは耳に優しくて、何でも言えてしまうような気がした。

「ううん、久し振り。5年ぶりくらい、かな。お父さん、アルコール依存症の人たちが一緒に生活してる施設にいたんだけど、抜け出して飲んじゃったみたいで……、それでお金がほしくてうちに来たんだと思う」

「金、とられたの?」

「うん」

井川さんはため息をついた。

「あんな小さな酔っ払い、自分で追い返せそうだけど、ダメなの?もう来るなってハッキリ言ってやればいいのに」

「言いたいけど、言えない。やっぱり……怖いの。子どもの頃のイメージが強いのかな……」

「そっか。……じゃあ、この次また親父が来たら、俺を呼べよ。わかったな?」

……。

嬉しかった……。

頼りにしてもいいって言われてるみたいで。
甘えてもいいって言われてるみたいで。

嬉しくて目に涙がたまって、あっという間にぽろっと落ちた。

「うん……」

小さくしがみ付いたら強く抱き締められた。

その力強さに切なくなって胸がキュウッと痛くなって、そして思い出した。
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