キャッチ・ミー ~私のハートをつかまえて~
それから私たちは、スーパーへ食材を買いに行った。
もちろん、野田さんの車で。
スーパーは歩いて行ける距離にあるけど、雨が降っているときは車があると助かる。
それに、今日から1週間は、毎日じゃないけど二人分の食材が必要だから、その分荷物が増えるってことだし。
と私は思いながら、野田さんをチラッと見た。

私の隣を歩く野田さんは、カートを押してくれている。
それに、私のペースに合わせて歩いてくれているのが、何となくだけどわかる。
「こういうとき、この人に守られてる」なんて考えた挙句、安堵感まで抱いてしまった私は、とんでもなく激しい勘違いをしていると結論づけることで、自分を戒めた。

「どうした?ひーちゃん」
「あ・・・の。野田さんって・・・今日は何を食べたいですか」
「“なんでもいい”ってのが一番困る答えなんだよなー」
「・・・あ!」
「何」
「野田さん、彼女がいるんでしょう?」
「は?どっからその答えが出てきた」
「さっきのセリフ、彼女に聞いたか彼女に言われたか・・・」
「あぁ」とだけ野田さんは言うと、フッと笑った。

「だから洗濯機借りるのは、やっぱりいけないことだと思います。困っていた私を助けてくれたことは感謝している・・・」
「いねえよ」
「・・・え?」
「3ヶ月前に別れた。ま、その前から会ってなかったが」
「あ・・・ぁ。そう、ですか」
「つーわけで、今んところつき合ってる女はいねえ。結婚もしてねえってのは、ひーちゃんも知ってるよな。あのマンションは単身者用だから」
「でも、単身赴任で住んでる人もいるんじゃないですか?」
「お。鋭いなー」

怪我をしてない野田さんの左手が、私の方に伸びてきたと思ったら、私の頭に乗って、髪をクシャクシャにされた。

わっ!ボサボサな私の髪が、もっとボサボサになった!
それにしても、野田さんって大きな手してる。
ごついのは分かっていたけど、髪に触れた手つきは・・・思ったとおり優しかった。
こんなことを男の人にされたの、何年ぶりだろう。
とにかく今のは・・・親密すぎなかった?

それはほんの2・3秒の出来事だったのに、私の頭の中では、いろんな思いが浮かんで、ひしめいて、パンク寸前だ。

俯いた私は、顔を赤くしながら、野田さんに触れられた頭の部分に手をやると、無意識に手ぐしで髪を梳かした。

「俺は独身だよ。結婚は一度もしたことない」
「あぁ・・・そうですか」
「ひーちゃんは?」
「私?は・・・過去に一度」
「それで2年前に別れて、今んとこに住んでる、と」
「そ・・・のとおり、です」

また当てられた。
この人とは滅多に会わないのに、私のことを知っている、というより、知り尽くされているような、心の奥底まで見透かされているような気がする。
相手が野田さんだから、居心地悪くて、同時に良くて・・・。

という気持ちまで認めたくない私は、「じゃあ、食べれないものって、ありますか」とつぶやくように、野田さんに聞いた。

「納豆と山芋。俺、ネバネバしてんのダメなんだ。食いにくいだろ」
「あ・・・理由はそれだけ?」
「おう」
「なるほど・・・分かりました。あ。あと、アレルギーがあって食べれないものは?」
「ねえよ」

それから野田さんとは、今買う食材の話だけをすることに徹した。
その方が、プライベートな会話をするより、心身共にラクだから。

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