キャッチ・ミー ~私のハートをつかまえて~
というわけで、中部と北陸の県警に問い合わせたところ、神奈川の他に、愛知と茨城でも似たような事件が発生していたことが分かった。

愛知では4歳の男の子が行方不明になり、5日後に岐阜で遺体が発見された。
そして茨城では、5歳の男の子が行方不明になった1週間後、栃木で遺体が発見された。
東京で起こったのは今回が初めてだ。

被害者は3歳から5歳の男の子で、被害者の母親は、いずれも妊娠後期であること。
死因は全て窒息死、遺体は隣県で発見されていること等から、この4件は同一犯による連続誘拐殺人である可能性が高い。

「この4件の被害者間同士、及び家族間の交流は、今も昔もない」
「あのー、質問があります」と一課の若手刑事に言われた俺は「どうぞ」と言った。

「神奈川・愛知・茨城で起きた事件の被害者の家庭は、いわゆる中流なのに対して、今回、東京で起きた事件の被害者の男の子は、大手銀行頭取の孫です。それも過去3つの事件と違うと思うんですが」とその若手が言うと、他の一課の奴が同調するかのように、「本当に連続殺人ですかね」と言った。

「確かにその違いはあるが、結局今回も身代金の要求はなかった。つまり犯人の目的は金じゃない。怨恨によるものだろうが、犯人は、被害者の家族に対する恨みというより、世間に対して恨み、というか僻みがあると俺は思う」
「妊娠している女性の家族は特にってことですか」
「そう。要するに逆恨みだよな。だがターゲットは特定の誰かじゃない。3歳から5歳の男の子と、妊娠後期の母親がいる家庭だ。恐らく犯人は、今回殺した子が頭取の孫だとは知らないと思う。犯行が起きた場所から、犯人は、中部や北陸あたりまでの土地勘がある、関東圏内に住んでいる者だろう」
「なるほど」と一課の奴らは感心の声を上げたが、敷島はただため息をついただけだった。

「こりゃ会見モンだな」
「それはおまえに任せる。指揮を執っているのはおまえだ」
「あぁそうだった。そしてゼロ課のみなさんは、メディア露出厳禁だったよなー」

「特別捜査課は隠密に事件解決に貢献すべし」という暗黙のルールが警視庁内にはあるため、特課の者が記者会見を行うことはもちろん、警視庁内でも表立って存在することはない。
事件解決に貢献はするが、解決したのは「捜査課」になるのはそのためで、だから特課は捜査課の誰かと合同で捜査にあたる。

そもそも特課の存在自体、警視庁内でも謎のベールに包まれていること、ひいては特課自体、「いつ消えてもいい課」で、「あってないようなもんだ」ということから、特課のことを「ゼロ課」と呼ぶヤツもいる。

まさにゼロ、何もないという皮肉を込めて。
又は、なつのさんとれんじさんによって選りすぐられた精鋭集団に抱く憧れと尊敬の意を込めて。

特課に入りたがっている敷島が「ゼロ課」と呼ぶのは後者の思いからだが、実際のところは、同期で同じ一課にいた俺が、なつのさんからスカウトされて特課へ行ったことが面白くねえことくらい、プロファイリングをするまでもなく、俺は知っている。
敷島は昔っから俺のことを敵視してるからな。
と言うより、こいつは単に「ライバル視」してると思ってるようだが、結局のところ、自分じゃなく俺が特課にスカウトされたことが、いまだに気に食わねえだけだ。

事件を解決すること、イコール「手柄を立てる」と思ってるヤツに、なつのさんたちが声をかけることは永遠にない。
そして今も俺に対する敵対心を引きずってるからこそ、こいつはいまだにスカウトされねえってことを自覚しない限り、特課へ来れることはまずない。

「公表内容はあまり露呈し過ぎるなよ。犯人を刺激しちまうからな」と敷島に言うと、捜査本部を後にした。


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