裏腹王子は目覚めのキスを



「ダメだ」
 
トーゴくんの第一声はそれだった。
 
夜の九時、行き詰っていた仕事がうまくいったらしくいつもより明るい表情で帰宅した彼に、さりげなく昼間の電話のことを伝えたとたん、トーゴくんは顔つきを変えたのだ。
 
カバンを置きシャツをソファに脱ぎすて、Tシャツ姿のままぶすっとした顔で食卓につく。
 
不機嫌なオーラを隠すことなく放出する王子様に戸惑いながら、わたしは用意してあったひとり分の食事をテーブルに並べた。

「な……なんでダメなの?」
 
おそるおそる尋ねると、彼は凛々しい眉を歪める。
 
視線をテーブルに注いだまま何かを言いかけて口を閉じ、思案するように間を置いてから低くつぶやいた。

「……今年の夏は帰省する」
 
トーゴくんの傍らに立ったまま、わたしは目をまたたいた。
 
彼がお盆に実家に帰るなんて、それ自体とてもめずらしいことだ。
 
二、三年に一度、年末年始にかけて帰省することはあれども、夏の時期に地元に戻ってくることなんてこれまでにあっただろうか。
 
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