裏腹王子は目覚めのキスを
「でも、トーゴくんなら簡単に奪い返せるんじゃ……」
「そう、俺が本気出せば、どんな女だって余裕で自分のものにできる」
薄い唇を片方つり上げて自信たっぷりに言ったあと、彼はくつくつと笑い出した。
「ってのは半分冗談だけど。でもつまり、余裕があんだよ、俺は」
「余裕……?」
背後の壁に背を預けて、王子様はどことなく憂いを含んだ表情を見せた。
笑っているような悲しんでいるような、深い色をたたえた瞳に、吸い込まれそうになる。
「なんつーのかな、本気の意味で余裕をなくしたことないっていうか。幸せにしてくれそうな男がいるなら、そっち行けばいいよって思う」
「……なにそれ」
「究極の博愛だろ?」
にやりと笑う彼の胡散臭さに、わたしは頬をふくらませる。
「たんに、自分が幸せにする自信がないから、他の男の人に譲ってるだけなんじゃ……」
「そうとも取れるかもな。要は他の男から奪いたいと思うほど、のめりこまないってことだ」
煙草を灰皿に押しつぶして、ため息混じりにつぶやく。
「あー失敗した、酔っ払いに語っちまった」
空になった料理の皿をどけて、彼は話の終了を告げるようにメニューを広げた。
その姿がなんだか寂しそうで、思わず声にしてしまう。