絶対零度の鍵






―良かった。




記憶が戻ったものの、僕の頭は靄がかかっているように、物事を明確に捉えることが出来ない。





ただ、安堵した。



きっと、これで、蓮貴は翠を助けられるだろう。



そう思ったら、身体中の力が抜けていくように感じた。




大粒の雨に打たれながら、僕はふらふらとその場にしゃがみ込む。




―あれ、おかしいな。



じわじわと染みている水の感触が、幾ら待っても感じられない。




急に視界が真っ暗になって、あぁ、きっとまた意識を失うんだなとわかった。




もう慣れ始めたその過程の中で。




僕は、あの文(ふみ)に書かれていた、短い文面を思い浮かべていた。

< 645 / 690 >

この作品をシェア

pagetop