近しい華は高嶺に咲く美しき花
それでも、その彼が羨ましくて。
気持ちが一滴でも俺に向いてくれないかと、願っても届かない。

近いところに綺麗な華があるのに、険しい山の上にそれがあって、手を伸ばしても届かない。

そんな俺は・・・その場限りで割り切った女たちに先輩の代わりを務めさせた。

他の女性を抱きながら、思うのは先輩のこと。

当然だが、情事を終えると思うのはどうしようもない虚無感。
そんな繰り返し。

そんな内に秘めた恋心を持ったまま、今日は栃木県の書店チェーン本部と、その周辺の書店への営業回りだ。

最近はずっと機嫌が悪かった先輩。
一緒に車に乗っているけど、助手席の先輩は割と今日は落ち着いている。

『いらっしゃいませ。遠いところありがとうございます』

先方の担当者との打ち合わせは、大体こんな挨拶から始まる。
東京からの距離が中途半端で、出版社の営業はなかなか来てもらえないといつも嘆かれ、"僕たちは月に1度は必ず行きますから"と返すのが定番の会話。

3県を週に1県ずつ回る。
1ヶ月は4週ちょっとあるので、1週を除いては、毎週出張があることになる。
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