夏恵
僕は当ても無く車を走らせていた。
何処か目的があった訳では無いし、人肌恋しく誰かを求めていた訳でも無い、ただじっとしていられずに車を一人走らせた。
そして気が付くと僕はいつも夏恵に会いに来る時に使う道を通り海沿いの街に来ていた。
夏恵の事を考えていたとしても、僕は彼女の住んでいる家も知らないし電話以外に連絡を取る術を持っていなかった。
僕は自分の行動が馬鹿らしく思えた。
そして海沿いの街にも夏の喧騒が存在していない事にガッカリしている自分に気づく。
僕は夏を求めて車を走らせたのかもしれない。
駅前の通りを流し、くすんだビルの前を通り海の方へ車を向けた。
開けた窓から少し冷たい風が吹き込んでくる。
秋風は僕の頬を撫でて今が夏では無い事を僕に教える。
海岸線の見える所まで来て僕は路肩に車を停めた。
ポケットに入っている携帯が鳴っていた。
