夏恵

『・・・誰だってトカゲの尻尾切りはやりたくないもんですよ。今日来てくれたのがアナタで良かった・・・』


 中年はそう呟く様に僕を労ってくれた。

僕は軽く中年と芳江さんに会釈をしながら部屋を出た。


 酷くガッカリしながら虚ろにエレベーターへ向かう。

僕は自分のしている事の矮小さに酷くガッカリする。

ビルに籠った熱気が不意に僕に夏である事を思い出させる。

虚ろなままエレベーターの前に着きボタンを押し込む。

人の出入りが全く無かったらしくエレベーターは5階で止まっていた。

ボタンから指を離した時、中年との世間話の中で不可解な事を思い出した。

このビルは来年にも取り壊す予定らしく、中年の会社を含めても3件しか入居してないらしい。

しかも5階は雨漏りのする部屋もあるらしく現在は入居してないとの事だった。

背筋がヒヤリとするのを覚えた。

僕はここに来る時に、確かに白いブラウスの女を乗せ5階のボタンを押して女を5階に導いた。

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