今日も俺は翻弄される
リビングに通された俺は、何か作るからと椅子に座って待つように言われた。


忠犬よろしく、井上さんの言いつけを堅実に守って、邪魔をしないように静かに待っていた。


手際よくパパッと作り終えてしまった彼女を見る限り、きっと井上さんは普段からきちんと自炊をしているのだろうとよく分かる。コンビニに頼りっぱなしの俺とは大違いだ。





――
―――


「ごちそうさまでした」


俺の体にスーッと馴染むような優しくておいしいご飯だったから夢中で食べたからか、あっという間に食べ終えていた。


そして、普段事務仕事をしている時と同じように何気ない会話をしていたから、初めての2人きりの食事も変に緊張し過ぎずに済んだ。


「私も、ごちそうさま。口に合ったみたいで良かった。お茶淹れてくるから待っててね」


俺に続けてごちそうさまをした彼女は、空っぽになった器を見て嬉しそうに笑っていた。その表情を見て、俺も嬉しくなって、つられる様に笑顔になった。


井上さんはぱっと立ち上がると、さっさと食器を手に持ってまたキッチンの方へと姿を消してしまった。


もっとプライベートな井上さんを見られるかと思ったけど、仕事の時と同じで一時もじっとしていない。常に動き回っていて、全然ゆっくり話も出来ない。


俺がここに居ることだけでも奇跡的だから、それで我慢しなくちゃいけないんだろうけど、何だか物足りない。


もう一度彼女の気持ちを確かめて、そしてだたの同僚じゃできないことも……ダメだ、1つ前に進んだと思ったら、もっともっとと求めてしまう。


欲深い自分が情けなくなった。あんまり焦ってしまうと、井上さんに捨てられてしまうかもしれない。それだけは全力で阻止しなければいけない。
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