多重人格者【完結】
「一之瀬!」
急に背後から低い男の声がする。
それを聞いて、“来た”そう思った。
隣で葉月が小さく悲鳴を上げている。
そして、制服の裾を引っ張った。
「……心君……」
アタシがそう呟くように言うと、草野はあからさまに嫌そうな顔をした。
その顔のまま、草野は言葉を発する。
「話がある」
「何ですか…?」
最後ににやっと笑ってやると、草野は更に眉根を寄せた。
あらら、怖い顔だこと。
いい男が台無しだよ?
「あやめ、先に行ってるね」
葉月が気を利かせたのかそう言って、アタシの返事を待たずに去って行く。
別にこいつと話す事なんてないんですけど。
きっと、話があるのはこいつだけだし。
…まあ、忠告してやるか。
「行こうよ」
葉月がいなくなった事を確認してから、アタシは“カンナ”の言い方で言う。
その言い方で、草野の目つきが鋭くなった。
きっと、今までアタシかあやめかわからなかったのだろう。
そう、推測した。