多重人格者【完結】
「行ってきます」
強張る顔。声。
変な緊張が全身を包んだ。
まだ、二人きりになるわけでもないのに。
放課後まで時間あるのに。
その時が来るのが恐ろしかった。
強く握る手には汗を掻いている
その手を開いて、見つめた。
「……大丈夫」
何も、ない。
いくら、遅くなるって言ったって…、そこまで遅くならないはず。
今までだって、そうだよ。
今までがどうだったかなんて、思い出せない。
ただ、これから訪れる恐怖に思考が阻められていた。
そうして、家から出て通りに出た時だった。
「…おはよ」
身体がビクンっと跳ねる。
そこにいたのは、草野君だった。
いつから待ってたのかはわからないが、塀に寄りかかって座りこんでいる。
「…え、草野、君?」
「うん、って事は、今はあやめ?」
それにコクンと頷く。
草野君はホッとした様子を見せると、立ち上がる。
それから、にっと意地悪い顔を見せた。