紅き月
「……変なの」
少年がぽつりと呟くと、同意の意を示すように、ざわざわと草が鳴る。
(でもなんか……)
綺麗だとも思った。
真っ黒の中で輝く、
深紅の月。
常識を覆すような、
深紅の月。
どんな画家にも、決して描けないだろう。
どんな絵の具でも、決して描けないだろう。
「赤いビー玉みたい……模様入りの」
かさかさと、草が笑う。
けなされても誉められても笑われても、全く動じる事なくこちらを見返す深紅の月。
先に動いたのは、少年だった。
ぐいっと上半身を起こすと、ほんの少しだけ、月に近づいたように感じた。
手のひらを上にして、ゆっくりと右手を持ち上げる。
それが月の真下までくると、まるで深紅のビー玉を手のひらに乗っけているようだ。
「うわぁ……」
少年の瞳が輝いた。
瞳の中の紅い月も、輝いた。
草が歌う。
少年の心が、それに合わせて踊りだす。
心臓を打つ鐘の音が速く大きくなっていき、少年はこらえきれずに、右手をぎゅっと握り締める。
――月が消えた
そうして少年は、
紅き月を
つかまえた。