跡にも咲にも




私と廉くんが初めてであったのは3年前。


大学4年生の卒業式だった。


たくさんの思い出にさみしくなって、代表で知らない人が卒業証書を受け取っているとき私は号泣してしまった。


一張羅の袴を着て、ばっちり化粧もしているのにこんなに号泣したら大変な顔になってしまうと思い、私はこっそり抜け出してトイレに向かった。


マスカラが落ちかけていて目の周りが黒い。


私は急いでティッシュでふいたもののなかなか落ちない。



『…あぁ、もう…』


せっかく早起きしてした化粧だったのに。


その時だった。


トイレのドアが開き、誰かが入ってきた。


私のほかにも抜け出す人がいたのか。


そう思って見ると、そこに立っていたのは長身のすらりとした男性。


『え…』

『は…?』


お互い素っ頓狂な声を出した。


男性は一度ドアを開けて表札を見る。


そして再び中に戻ってきた。


『…あの、間違ってますよ』
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