私、立候補します!
動けないはずのアレクセイはベッドから下りて立ち上がり、ゆらりと足を進める。
「ラディアント様!」
「エレナさん? っ! アレクセイ!」
エレナの声に顔だけ振り返ったラディアントはようやくアレクセイの様子に気づき、対応しようと体を動かす――はずだったが、彼の体は雪がまとわりついて顔から下が凍りついたように動かない。
チェインも同じように動けず、そんな二人を見たアレクセイが笑い声をあげて片手に氷の剣を作りあげて走り出す。
「死ねぇ――――!」
鬼のような形相で両手で握りしめた剣をラディアント目掛けて突進するがごとく足を進めるアレクセイ。
背中を向けている状態のラディアントは魔術を使うことも出来ず佇んだまま。
(アレクセイ君がラディアント様を……? そんなの駄目!)
父に憧れ次期当主を目指すアレクセイの笑顔が目の前で掻き消えたエレナは衝動のままに二人の間に立ちはだかった。
動けたことに誰もが驚く中、エレナは自分の体に重い衝撃を感じて呻き声をあげた。
「な……っ!」
「エレナさん!」
青い目が見開かれ、後ろからは自分の名を呼ぶ二つの声が聞こえる。
エレナは震える右腕に力をこめて距離が近いアレクセイの左頬を手で包む。
「駄目、だよ……? アレク、セイ君、は、立派な、伯爵に、なるんだから――……」
エレナは激しい痛みと熱に涙を浮かべながらアレクセイに今の自分に出来るだけの歪んだ笑みを浮かべてみせた。
呆然とするアレクセイが握っている剣は深くエレナの腹部を貫いており、あふれる鮮血が刃を伝ってアレクセイの手に触れた。
その瞬間アレクセイは剣から手を離して飛び退き、エレナの血に反応をしめす。
「何なんだお前は……! ――くそっ、後一歩だったのに……っ」
アレクセイは顔を歪めて両手で頭を抱え、ふらふらと後退りを続ける。
やがてベッドの端にぶつかると叫び声をあげてエレナに冷たく凍りつくような目を向けた。