私、立候補します!

「大丈夫ですよ。国境にはラディアント様が強力な結界術を施していますし、国境を守るカルバン閣下がいらっしゃいますから」

「はい……」

 国境警備に結界術。ライズ国との国境への対応の違いにエレナは背中が一瞬ひやりとする。
 自由な行き来は出来ないもののライズ国とサセット国の国境の警備は軽く、侵入を防ぐ結界などはない。
 それもお互いの信頼関係のもとに成り立っているのだが、反対側にそのような対処をとっていることを知ったエレナは自分の考えが甘いことを感じた。

(豊かさには犠牲もある……。豊かだから魔術も発展したのかと思っていたけど、豊かにするために魔術を発展させていったのかな……)

 何かを得るために、時には何かを差し出さなければいけない。
 エレナが生きてきた二十年に満たない年月の中に命を懸けるほどのことは訪れていないけれど。
 ラディアントはいずれ国の王として何かを得るために何かを失わなければならない時があるのだろうか。王太子である現在も日々そうであるかもしれない。
 自分では想像しきれないその重さに、エレナはうつむいてラディアントの姿を思い浮かべた。
 女性の姿、男性の姿、それぞれのラディアントが笑んで一つに重なる。
 どうか訪問が無事に終わりますようにと願いながら――。

< 57 / 121 >

この作品をシェア

pagetop