遊川さんは今日も最強
「手こずったところはちゃんとメモしておくのよ? そんで、どうやったら上手くいったかを原稿に書きなさい」

「いやでも、どうしてもうまくいかないんですが」

今回作る、『ふわもこ! あったかスリッパ』は俺にはちと荷が重い。
ミシンで上手くカーブが縫えないし、生地が厚いからか縫ったものを表に返すのもキレイに出来ない。

「手こずってるのどこ? ミシン? ちゃんと布のほうを動かしてる?」

「綺麗なカーブで縫えないんですよ」

「布を両手で抑えて、ミシンの動きに合わせて曲げてやるの。ミシンはまっすぐにしか動かないんだからね。布のほうを動かすのよ。女の体みたいな曲線を思い出してさ。慣れてるんでしょ」

「遊川さん、セクハラ」

「うるさいな。童貞でもないんでしょ」

確かに童貞ではないが、しばらく女性とお付き合いはしていない。
女の体の曲線など忘れてしまいそうだ。

「終わったら校正の方手伝ってよ」

「はい」

遊川さんの気配が消えていってほーっと息をつく。

でも『慣れてるんでしょ』って。
俺ってそんなふうに見えてるのかな。

悶々としながら、再び目の前のミシンに向き合う。

遊川さんの声が頭から離れず、目の前の生地に思わず裸の遊川さんを想像してしまう。
ツンと上を向いた胸、美しい曲線を生み出す体のライン。

途端に血液が上昇して心拍数がヤバイことになる。
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