でも、好きなんです。
窪田さんと二人、たわいもない話をしながら、電車に乗り、私の家の最寄り駅に着く。窪田さんが降りるはずの駅は、もうひとつ向こうの駅なので、そのまま乗っていてくれていい、と何度も言ったのに、窪田さんは、私と一緒に降りてきてしまった。仕方がないので、そのまま最寄駅から、家に向かって歩き始めた。

「窪田さん、ごめんなさい。送ってもらってしまって・・・。」

「なぁに言ってんの。河本さんは女の子なんだから。こんな遅い時間に、ひとりでなんて帰せないよ。」

「でも・・・。」

「じゃあさ、悪いと思うなら、なにか、面白い話して?河本さんのこと、色々聞きたいな。」

窪田さんがそう言ってくれたことで、少し気持ちが楽になる。窪田さんって、本当に優しい。

歩きながら、話題は、最近見た映画のことや、面白かった漫画の話など、話題は尽きなかった。
窪田さんと話すのは、とても楽しい。窪田さんは、小さな男の子みたいに、元気で明るくて、よく笑う。向日葵みたい。・・・って、女の私のほうが言うのは変かな。

「わかります!あの漫画、マジでいいですよね~。」

「少女マンガではね、無理チューは外せないですよ、王道です。」

「ムリチュー?」

「無理やりチューする、の略です。」

私の説明に、窪田さんが、驚きで目をぱちくりさせる。

「窪田さん、鳩が豆鉄砲食らったような顔してますよ。」

「す、すごい・・・少女漫画にはそんなワードがあるんだ。む、無理やりチューする、か・・・。それが女の子的にはたまんない、ってわけ?」

「ロマンです。」

「ふーん。」

 その後、少し会話が途切れた。私の家までは、もう数分というところだ。

 ふと、山村課長のことが、思いだされた。

二次会では、『女の子のいるお店』に行くと言っていたけれど、今頃、そういう場所で飲んでいるんだろうか。

ちくりと、胸が痛んだ。課長はそういうお店は嫌いそうだけど・・・。

「課長、今頃、いかがわしいお店で飲んでるんでしょうか。」

「え?」

「いや、上の方に合わせるのも大変だろうな、って。」

私の言葉に、窪田さんは、じっと私を見つめた。

「・・・課長のこと、そんなに気になる?」
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