でも、好きなんです。
「課長・・・本当に、すみませんでした。。」

 帰りの車の中で、私は再度、課長に謝った。

「いや、そんな、気にすることないよ。」

「だって、こんなおおごとになってしまって・・・。」

「そういうこと、僕だってあるよ。

河本さんはさ、ほんと、一生懸命やってると思うし、全然、気にすることないよ。」


課長が、優しい口調で言ってくれる。車内にはFMのラジオがかかっていて、数年前にはやった曲が流れている。


「・・・でも。」

「大丈夫だよ。河本さんは、頑張る人だって、よくわかってるから。

・・・むしろ、ちょっとほっとしたよ。河本さんでも、こういうこと、あるんだな、って。」

「え?」

「ほら、河本さんって、本当によく仕事が出来るからさ、実は内心、上司として、甘く見られないようにしっかりしなきゃ、っていう気持ちがあって。」

「甘く見るなんて、そんな・・・。」

私は慌てて否定した。


「いや、もちろん、河本さんが、人をそんなふうに見たりする人じゃないってわかってるけど、

 僕自身の気持ちの問題だよ。

 だから、今日はその、ちょっと不謹慎だけど・・・、嬉しかったよ。」

「え?」


 課長の言っている意味がわからず、運転している課長の横顔を見返す。


「上司らしいこと、できたし、なんていうか、河本さんに、頼ってもらえて、さ。」


 山村課長の表情は、少し照れくさそうに見えた。


「頼ってもらえて・・・なんて、そんな・・・。

私、いつも、課長に頼ってばかりで、迷惑も・・・本当に・・・。」


「そんなことないよ。河本さんに頼ってるのは僕のほうだ。」


「そんなことありません、私、本当に・・・すみませんでした。」


「あー、もう、やめやめ!いい?今日は、もう謝るの禁止ね。」


 そう言って、課長はにこりと笑った。ほっとして、少し、涙がこぼれた。

 それを見て、山村課長がひどく取り乱す。


「わ、わっ、な、泣いてるの?

そんな、泣くことないよ、まずいよ、僕が泣かせたって思われるよ!」


初めて見る課長の様子に、私はなんだかおかしくなって、涙目のまま、くすくすと笑った。


やっぱり、課長のことが好き。


でも、これ以上、優しくて、素敵なところを見せないで。これ以上、好きになったら、つらいです。。


心の中で、祈るようにつぶやく。

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