でも、好きなんです。
席に戻ると、部長が私の席にやってきて、突然言った。


「河本さんさ、来週の木曜と金曜、なにか予定ある?」

「え?え?木曜と金曜ですか?」


卓上のカレンダーを確認する。


「木曜と金曜日は特に予定はないですね・・・。」

「そうか。じゃあさ、出張行ってくれない?ちょっと仙台まで。」

「ええっ?!」

「先方がね、英語が堪能な社員をつけてくれとおっしゃっていて・・・、河本さん、英語、得意だったよね?」


たしかに、大学が英文科だったこともあり、英語はそれなりに出来るほうだとは思う。


「はあ・・・。でも、あの、私にわかる内容なんでしょうか?」

「ああ、大丈夫。内容に関しては、山村君がよくわかってるから。

山村君と、副部長がついていくから、君は、事前の資料の英訳や、山村君の説明の英語通訳をやってもらったら大丈夫。」

「ああ、ええと・・・。」


返答に困って課長のほうを見ると、課長が申し訳なさそうな顔でこちらを見ている。


「河本さん、急にごめんな。

僕も英語が出来ないわけじゃないんだけど、河本さんのほうが得意だから・・・。

来てもらえたら助かるんだけど・・・。」


課長に、そう言われたら断れない。


「わかりました。よろしくお願いします。」

「ああ、良かった。そうしたら、頼むね。

詳細は、山村君と相談して。」


そう言うと、部長は自席に戻って行った。

課長が私の席へとやってくる。


「ごめんな河本さん、忙しいときに・・・。」

「いえ、大丈夫です。この前は、課長にもご迷惑をおかけしましたし・・・。

 私でお役にたてるなら、嬉しいです。

 資料、出来あがったら英訳するので、またいただけますか?」

「そしたら、出来るだけ早めに作って渡すよ。ありがとう。当日の切符は僕が手配するから。よろしく頼むね。」


そう言って課長は席に戻って行った。


「愛美ちゃん、すごーい。さすが、賢い子は違うなあ。」


美香さんに言われる。


「そんな、賢くなんかないですよ。」

「まーた謙遜しちゃって。

いいな~。

あたし、馬鹿だからなあ。

課長と副部長と仙台か~、いいなあ。

お土産、期待しちゃおうかな。

これが窪田さんと二人でなんて言ったら、なーんか怪しそうだけど、課長も副部長もご家庭があるし、安心よねえ。」


美香さんの言葉に、窪田さんが飲んでいたお茶でむせる。

・・・これって、美香さんなりの牽制かな?

とか思うのは考えすぎ?


「ちょ・・・、美香さん、なんてこと言うんですか。

僕がいつ怪しかったって言うんです。」

「あーら、最近、なんか怪しいじゃない。やけに愛美ちゃんのこと気にしちゃって。」

「そんなことないですよ!」

「ふーん。

そんなこと言って、心中穏やかじゃないんじゃないの?

愛美ちゃんが、課長と仙台なんて言って。」


横で聞いていた課長が笑って言う。


「あはは、佐藤さん、何を言ってんだい。

 こんなおじさん、なんの危険もないよ。

 でも、光栄だなあ。

 こんなに若い窪田君のライバルとして見てもらえるなんて。」


あー、課長ってば余裕の発言。

・・・だよね、私と一緒に出張だからって、課長は、なーんとも思わないよね。


「二人とも、やめてくださいよ。

わかってます?

ここは、職場!

職場ですよ。

からかうのはやめてくださいよ。」


窪田さんが怒ったように言った。
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