でも、好きなんです。
カフェでそのまま少し話をしてから、課長が予約した創作料理のお店に行った。

そのお店は、ビルの30階にあった。

窓際には、並んで座るカウンター状の二人席が配置されていて、仙台市街の夜景が一望できた。

店内は薄暗く、ところどころ間接照明で照らされているだけだ。

中央には、円状のオープンキッチンがあって、鉄板焼きの炎が上がっている。

(このお店・・・明らかにカップル仕様なんですけど・・・。)

案の定というべきか、ウエイターに案内された席は、まさかの窓際のカップル席だった。

戸惑いながら、課長のほうを見ると、課長も困惑の表情を浮かべている。

「ええと・・・席は、ここ、しかないですか?

 奥のテーブル席とか・・・。」

「まことに申し訳ありません、あいにく今日は、大変混雑しておりまして・・・。

 空いている席はここしか・・・。」


 課長の問いかけに、ウエイターが恭しく頭を下げて答える。


「河本さん、その、この席は、ちょっと、なあ?」


 困った顔で課長が私のほうを見た。


「え、っと・・・。」


答えかねていると、ウエイターが頭を下げたまま、ちらりと私のほうに視線を向けた。

いたたまれなくなって、答えた。


「いえ・・・、私は、大丈夫ですよ・・・。」

ウエイターが、ほっとしたような表情で頭をあげる。

「・・・よろしいですか?

 まことに申し訳ありません。

 事前にご説明すれば良かったのですが・・・。」


ウエイターが、再度申し訳なさそうに言った。


「いえ、大丈夫です。

ありがとうございます。」


私はそう言って、立ったままの課長を横目に、二人掛けのソファ席に腰かけた。

ウエイターが去ると、課長は申し訳なさそうに、隣の席に腰かけた。


「ごめん、その・・・。

弁解しておくと…、ほんとに知らなかったんだ。

やましい気持ちはないからね、ほんとに。」

慌てて言う課長がなんだかおかしかった。

「いいですよ~、課長。

 私だって、いい年だし、カップルシートくらいでびっくりしません。」

「・・・あれ、河本さんから意外な発言。」

「そうですか?

 だって、この夜景、本当に素敵だし、お店もすごくいい雰囲気だし、勿体ないですもん。

 今日は飲みましょ、課長。」


 カップルだらけの店内で、自分自身変なテンションになっている気もしたが、課長がほっとしたように笑ってくれて嬉しかった。


「いいね、河本さん。

台風さまさまだな。

さ、なんでも好きなもの頼んでよ。

今日は、奢るよ。

・・・この牛タンの鉄板焼きなんかも美味しいんだ。」

 そう言って、課長がメニューをめくった。
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