でも、好きなんです。
そんな会話をしながらドキドキして嬉しかったのもつかの間、課長が一体私のことをどう思っているのか、気になってしかたがない日が続いた。

課長が奥さんと一体どんな関係でいるのか。

あの日、私にキスをしたのは下心からだけなのか。

考えても考えてもわからない。

それからの一週間、課長はまるであの出張の日の出来事などなかったかのように振る舞っていた。

私も同じだった。

だけど、心の中は全然違った。

聞きたいのに、聞けない。

普通の恋愛ならば、まわりの人に相談することだって、出来るのに。

奥さんがいる人に恋をするって、こんなにつらいことだったんだ・・・。

今更ながら、そう実感していた。

あの出張の日、私は、それ以前までの日々とは別の次元に飛ばされてしまったような気がしていた。

それまでとは、なにもかもが変わっていた。

課長に、ただ、憧れていただけの日々とは。

想像していたような、楽しいだけの日々ではなかった。

毎日が、苦しく、つらかった。

今日は、今日こそは、課長から、連絡があるかもしれない。

そう期待して何度もスマートフォンを見ては、メッセージがないことにがっかりする。

メッセージの通知があっても、別の人からでがっかりしてしまう。

いっそ自分から連絡してみようかと思っても、もし奥さんに見られたら?と考えると連絡できない。

そもそも、連絡してもいい立場なのか、わからない。

私って、課長にとって、一体なんなんだろう。

連絡の来ない日が続くにつれて、私は、スマートフォンをむしろあまりのぞかないようになっていた。

来ていないに決まってる、そう思って、諦めて過ごす毎日のほうが、ずっと楽だった。
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