焼けぼっくいに火をつけて
♯4
月曜日。

心身、特に精神的に疲弊したまま出勤。金曜日の夜、慌ただしく別れたままで、その後連絡してなかったから、田岡先生たちの追及は免れないだろう。

田岡先生は男子生徒に人気がある。“美人講師”で雑誌にも出たことがある、地方のタウン誌だけど。朝から浪人生中心の講義中だ。川井さんは午後から出勤だから、まだ顔を合わせていない。

・・・北見くんからの連絡はない。

午前の講義が終わったらしく、騒ついた雰囲気が廊下の向こうの方から届いた。講師たちも戻って来るだろう。講師たちの部屋と事務室は別だから、通常はここには来ない・・・。

「えりりーん」

後ろからガシッと羽交い締めにされた。

「話を聞かせて貰おうじゃないの」
「田岡先生・・・」

やっぱりこの人は来た。男性しかいない講師室に1人で居づらいのもあるだろうけど。今日は絶対に目的が違うと思う。

「田岡先生にランチに誘われたから、早めに来ちゃった。愛理ちゃんも行くよね?」

いつの間にか出勤していた川井さんに、左腕を絡められていた。2人の目は、キラキラと光っている。その向こうでは、事務長たちが冷たい目をしてこっちを見ている。わたしが動かないことには、状況は変わらないだろう。

こうなることは覚悟していたから、重たい腰を上げた。




「で?」
「で?」
「で・・・って。」

予備校から10分くらい歩いたカフェ。予備校から離れてるから、講師も生徒さんたちもいない。女性相手の店内は、かなりガヤガヤしていて、少々騒いでも、誰も気にしないような店。周りに聞かれないようにはしてるんだろう。

当たり障りのない会話をしながら、ランチセットを平らげ、後は食後のコーヒーとデザートだけになった時、ようやく本題、2人が本当に話したかったことを切り出して来た。

「白々しいね、えりりんちゃん」
「奥村さんと帰ったのよね。その後どうなったの?」
「う・・・」

2人のキラキラ光線が怖い。

「奥村さんって、えりりん狙いって丸分かり。トイレに立った時、慌てて追いかけたもんね」
「知り合いなんだよね?この前は2人ともいなくなっちゃったから聞けなかったけど、どういう関係?」
「あー、高校の時の・・・担任」
「それは聞いたわよ」
「誤魔化すな」

ペチンと、田岡先生がわたしの額を叩く。

「愛理ちゃん、観念しなさい。今逃げれたとしても、田岡先生の追及からは逃れられないわよ」
「うぅっ」

川井さんの言う通り、ここで粘ったとしても、帰りに捕まってしまうだろう。渋々口を開いた。
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